株主の権利弁護団

NTN株主代表訴訟事件

1 事件の概要

(1) はじめに

本件は、NTN株式会社(以下「NTN」という。)が、2011(平成23)年7月26日、公正取引委員会から、日本精工株式会社(以下「日本精工」という。)、株式会社不二越(以下「不二越」という。)及び株式会社ジェイテクト(以下「ジェイテクト」という。)の事業社と自動車用ベアリング及び産業機械用ベアリングの販売に関してカルテルを結んでいた疑いで立入調査を受け、2013(平成25)年3月29日に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)3条に違反する行為があったとして、排除措置命令及び課徴金72億3107万円もの課徴金納付命令を受け、同年7月1日までに同額の支払いを強いられたことにつき、取締役であった者らに対し、NTNが被った上記課徴金相当額である72億3107万円の損害賠償を求める株主代表訴訟である。

(2) 本件カルテルの概要

NTNは、2004(平成16)年頃から2008(平成20)年頃にかけて、ベアリングの原材料である鋼材の仕入価格の値上がり分をベアリングの販売価格に転嫁するため、日本精工、不二越、ジェイテクトらと共同し、各社の本社営業責任者級の者による会合、本社営業部長級の者による会合、販売地区ごとの支社・支店の長等による会合、需要者ごとの営業担当者による会合を開催することなどを通じ、ベアリングの値上げの方針や需要者ごとの値上げの要請の内容等についての情報交換を行った上、値上げ価格又は値上げ率を決定し、NTN、日本精工、不二越、ジェイテクトの4社がこの決定に対し相互に拘束していたことが、違法行為にあたるとされた。

公取委が認定した違反事実の概要は以下の通りである。

NTNは、2010(平成22)年5月下旬から同年8月下旬までにかけて、日本精工、不二越、ジェイテクトと共同し、同年7月1日以降に納入する産業機械用ベアリングの販売価格について、同年6月時点におけるNTN、日本精工、不二越、ジェイテクトの販売価格から、一般ベアリングにつき8パーセントを、大型ベアリングにつき10パーセントを、自動車用ベアリングの販売価格については、同年6月時点における4社の販売価格からベアリングの原材料である鋼材の投入重量1キログラム当たり20円を目途に引き上げることを合意し、公共の利益に反して産業機械用ベアリング及び自動車用ベアリングの販売分野における競争を実質的に制限したものである。

(3) 過去におけるカルテルの存在

1973(昭和48)年、NTNの販売店であった東洋ベアリング販売株式会社、ジェイテクトの前身である光洋精工株式会社、日本精工及び不二越はオイルショックの影響を回避する目的で価格カルテルを結び排除命令を受けている。

(4) 課徴金の納付

2013(平成25)年4月23日、NTNは公取委の排除命令及び課徴金納付命令に対する不服申立で審判請求(独占禁止法49条6項、同法50条第4項)を行ったものの、同年7月1日までに課徴金72億3107万円を納付した。

2 株主代表訴訟の経過

当弁護団は、株主からの委任を受け、NTNに対して、取締役らの責任を追及するよう提訴請求を行った。

しかし、NTNは、提訴請求を受けて60日以内に責任追及訴訟を提起しなかったことから、当弁護団は、2013(平成25)年9月2日、大阪地方裁判所に訴状を提出し、取締役らの責任を追及する株主代表訴訟を提起した。

3 本件訴訟の意義

NTN及び関与者とされる元役員2名らは、本件カルテルにつき、独禁法違反により起訴されたが、NTNらは、カルテルへの関与がなかったものとして争っている。同被告事件については、2015(平成27)年2月4日、東京地方裁判所において、独禁法違反被告事件についてNTNに対する罰金刑4億円及び元役員2名に対する執行猶予付き懲役刑を命ずる判決が言い渡された。NTN及び元役員らはこれに控訴したが、2016(平成28)年3月22日、東京高等裁判所においてNTNらの控訴を棄却する判決が言い渡された。NTN及び元役員らは、この判決を不服とし、最高裁へ上告した。

本件株主代表訴訟は、上記のように会社や関与者とされる役員らがカルテルへの関与そのものを争っている中で、役員らに対する責任追及の訴えにより、カルテルへの関与についての真実を明らかにするとともに、取締役らにおいてカルテルの早期発見等のための内部統制システムを構築すべき義務を怠ったとして役員らの注意義務違反を追及するものである。

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