株主の権利弁護団

東芝株主代表訴訟事件

1 東芝不正会計事件について

株式会社東芝(以下「東芝」という。)は,2015(平成27)年4月,「不適切会計」の問題を公表し,同年7月,第三者委員会による調査結果を公表した。

【要約版】 https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150720_1.pdf#search=%27%E6%9D%B1%E8%8A%9D+%E7%AC%AC%E4%B8%89%E8%80%85%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A+%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%27

【全文】
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150721_1.pdf

東芝の株主から依頼を受け,当弁護団は,2015(平成27)年9月,東芝の取締役・執行役ら28名の現旧役員に対し,総額10億円の損害賠償請求を求めるよう,東芝に対して請求したところ,東芝は,役員責任調査委員会を設置し,同年11月,同委員会が報告書を提出した。

【全文】 https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20151109_1.pdf#search=%27%E6%9D%B1%E8%8A%9D+%E5%BD%B9%E5%93%A1%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A+%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%27

東芝は,2015(平成27)年11月7日,過去の社長3名,最高財務責任者2名について不正会計に関与したとして,東京地裁へ損害賠償請求訴訟を提起した。しかし,それ以外にも役員責任調査委員会が不正会計への関与したことを認めた現旧役員9名については提訴が見送られた。

東芝は,2015(平成27)年12月,証券取引等監視委委員会から金融商品取引法違反の疑いで,金融庁に対して課徴金73億7350万円の納付命令を出すよう勧告され,金融庁から課徴金納付命令を受けた。また,同月,金融庁は,東芝の監査を担当していた新日本有限責任監査法人に対しても課徴金21億円,新規業務停止3ヶ月などを命じる行政処分を発表した。

当弁護団は,東芝が歴代社長等5名について訴訟提起したことについて一定の評価はしたものの,それ以外に関与が認められた9名の役員について提訴がなされなかったことは経営者の責任追及として不十分と判断した。

そこで,2016(平成28)年1月,東芝が提起した訴訟に共同訴訟参加するとともに,同年5月,上記9名を含む11名の現旧役員に対して,東京地裁に株主代表訴訟を提起した。

この株主代表訴訟では,以下の各案件について現旧役員の責任を問う訴訟を行っている。

①原子力新規プラント建設プロジェクト,米国の地下鉄車両に使用する電機品の設計及び製造や日本国内におけるETC設備更新工事といったインフラ関連案件において,東芝の子会社あるいは社内カンパニーにおいて,損失の発生が見込まれる状態であったのに損失額が過小に見積もられ,損失引当金が適時に計上されなかった問題(インフラ関連案件問題)。

②東芝のPC事業においてはODM形式による委託でPCを製造していたところ,東芝あるいは台湾における子会社が,ODM委託先に対して有償支給するPCの部品取引を利用して利益をかさ上げしていた問題(バイセル取引案件)。

③本来ならば発生主義に従って費用計上すべき費用を適時に計上を行わず先送りしたり,すでに取引先からの役務の提供を受けているのに支払先に依頼して請求書の発行を遅らせてもらって経費の計上を遅らせたり,東芝の海外現地法人に販売する商品について製品価格を一時的に増加させた価格で販売して利益を過大に計上したりした会計処理の問題(キャリーオーバー案件)。

また,東芝の株主及び当弁護団は,2016(平成28)年7月,東芝に対し,会計監査人である新日本有限責任監査法人についても,一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って会計を行っているかどうか監視する義務を怠ったとして,これにより東芝が被った損害についての責任追及を求めるよう求めたが,東芝はこれを行わなかった。

そこで,当弁護団は,2016(平成28)年9月,会計監査人である新日本有限責任監査法人についても,東京地裁に株主代表訴訟を提起した。この訴訟では,上記バイセル取引案件について,東芝が公正な会計慣行に違反する会計処理を行っていたにも関わらず新日本有限責任監査法人が東芝の連結損益計算書に対して無限定適正意見を表明し,もって,重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽の無いものとして証明したことにより東芝が損害を被ったとして,新日本監査法人の東芝に対する損害賠償責任を追及している。

このような経過をたどり,現在,当弁護団は,東京地裁において,東芝の不正会計事件について,

・第1事件 東芝が提起した5名の役員に対する共同訴訟参加事件
・第2事件 株主が原告となって提起した10名に対する株主代表訴訟事件
・第3事件 会計監査人に対する株主代表訴訟事件

の3つの訴訟を遂行している。

2 本件訴訟の意義

株式会社制度は,株主の有限責任を前提とするため,会社債権者の引当てとなるものは会社資本しかない。そのため,会社資本が充実し,その財務内容がディスクロージャー(公開)されるということは,株式会社制度の根幹にかかわる問題である。

2001(平成3)年,米国ではエネルギー産業の大企業エンロンが不正会計を行っていたとして,連邦破産法11条の適用を裁判所に申請し倒産した。また,このエンロンの会計監査を担当していた会計事務所アーサー・アンダーセンもエンロン関係の資料を破棄したことが発覚して起訴され廃業に追い込まれた。2002(平成4)年には米国の通信大手ワールドコムも不正会計が明らかになって倒産した。これらの企業の経営者たちは,ストックオプションを行使することによって巨額の利益を得ていたが,株価を高くするために不正会計を行っていたとされており,これらの悪弊は多くの企業においても見られるものである。

日本でも,2006(平成8)年に新会社法が施行され,コーポレートガバナンスが強化されることになったと言われており,東芝はいち早く委員会等設置会社となって,この強化されたはずのコーポレートガバナンスに取り組んできたはずの企業である。それにもかかわらず,本件は発生した。会社債権者の信用や株式投資の根拠となるべき企業会計について虚偽の事実を記載したことは,株式会社制度の根幹を揺るがす不正行為であるといえる。

調査委員会や役員責任調査委員会による調査報告書では,経営陣は「チャレンジ」などと称する過大な収益目標達成を求める圧力をかけることが常態化しており,明示的又は黙示的に不正な会計操作を求めていたとされている。また,これらの要求を受けた現場の従業員らも,会社の業績をよりよく見せるために,インフラ案件における工事進行基準,バイセル取引やキャリーオーバーといった不正な会計処理を行っていたとされている。

さらに,このような不正な会計をチェックするべき立場の会計監査法人もチェック機能を果たさず,各四半期毎に監査証明を行い続けていたものである。

当弁護団は,株主代表訴訟を通じて,今回の東芝不正会計事件の全容を明らかにするとともに,新会社法の委員会等設置会社においても今回の企業不祥事を阻止し得なかった原因を明らかにするように努め,この企業不祥事を招いた経営者の責任,会計監査人の責任を追及する所存である。

以 上

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