株主の権利弁護団

橋梁談合株主代表訴訟事件

1 橋梁談合事件とは

(1)かつて鋼橋工事業者47社は,東日本の国土交通省地方整備局や日本道路公団が発注する鋼橋上部工事の競争入札において,K会やA会と呼ばれる入札談合組織を構築し,長年にわたって違法な談合行為を行ってきた。

(2)2005(平成17)年5月以降,公正取引委員会は,(1)の談合行為が独占禁止法に違反するとして鋼橋工事業者のうち数社を刑事告発し,2005(平成17)年9月29日には,鋼橋工事業者45社に対して,独占禁止法に基づく排除勧告を行った。

(3)結果として,鋼橋工事業者は国に対して多額の課徴金や違約金を支払うとともに,国や地方公共団体から長期間の指名停止措置を受けて多額の受注損をこうむることになった(以下「橋梁談合事件」という。)。

2 株主代表訴訟の提起

当弁護団は,2006(平成18)年,1の橋梁談合事件に関し,鋼橋工事業者のうち,神戸製鋼所,日立造船,住友金属,三菱重工,IHI,三井造船,住友重工業の7社について,各社の株主から委任を受け,同7社の取締役らを相手取って,各社が被った課徴金や違約金,信用毀損等の賠償を求める株主代表訴訟を提起した。

主張の要旨は,「被告となった取締役らが,長年にわたる違法な談合行為を容認(黙認)し,談合を防止するため真に実効性ある内部統制システム構築を怠った」として,取締役らに対し,これらの義務違反によって発生した損害を,会社に賠償するよう求めたものである。

(注:住友金属に関しては,使途秘匿金事件,ステンレス鋼板カルテル事件と併せて訴訟提起した。)。

3 和解の内容

(1)和解の成立

これら7件の株主代表訴訟は,いずれも,訴訟上の和解をもって終了した。
うち,神戸製鋼所,日立造船,住友金属の和解の骨子は以下のとおりである。

① 神戸製鋼所
本件橋梁談合事件の原因調査及び再発防止のため,「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置して提言を受け,1年以内にその提言内容と再発防止策をホームページで公表する。この委員会のうち3名を外部委員とし,うち1名は原告が推薦する弁護士から選任する。
被告となった取締役らが会社に支払った解決金は,コンプライアンス委員会の運営費用など,コンプライアンス体制の構築のために充てる。

② 日立造船
「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」(原告が推薦する外部委員を含む)を設置する。
被告らが会社に支払った解決金は,同委員会や内部通報制度の外部受付窓口,談合防止マニュアルの整備等の費用に充てる。

③ 住友金属
外部委員3名で構成される「使途秘匿金事件等コンプライアンス検証・提言委員会」を設置して提言を受け,1年間を目処に,本件の事実関係及び発生原因の再調査並びに実質的な再発防止策の策定を行い,株主総会で報告するとともにホームページで公表する。同委員会のうち1名は原告が推薦する弁護士から選任する。
被告らが会社に支払った解決金は,同委員会の運営費用に充てる。

(2)和解の特色

和解に際しては,外部委員を含む調査委員会を設置して不祥事の調査を行った上で,実質的なコンプライアンス体制を構築するという内容を盛り込んだ。また,外部委員のうち,1名は原告が推薦する弁護士を登用することを定め,調査・提言の実効性を高めるための工夫を行った。

こうした手法は,2009(平成21)年6月に大林組談合株主代表訴訟において,大阪地裁で成立した和解のあり方を継承するものである。

4 裁判及び和解の意義

それぞれの裁判を通じて,鋼橋工事業者は,改めて,独占禁止法遵守体制の強化を推進するとともに,外部調査委員会を設置して談合事件の原因調査と再発防止策を策定する姿勢を表明した。

3で紹介した和解の内容は,今後,企業の不祥事を防止し,実質的なコンプライアンス体制を構築するための「モデル」となりうるものであり,いずれも重要な意義を有すると考える。

5 主任弁護士

(神戸製鋼所)由良尚文,加藤昌利,須井康雄,富田正和,
(日立造船)阪口徳雄,白井啓太郎,前川拓郎,
(住友金属)河野豊,塚田朋子,沼田洋佑

以 上

Pocket