株主の権利弁護団

シャルレ子会社融資株主代表訴訟事件

1 事件の概要

本件は,株式会社シャルレ(以下「シャルレ」という。)が,その子会社である株式会社エヌ・エル・シーコーポレーション(以下,「NLC」という)及び株式会社シャルレライテック(以下,「ライテック」という)に対して無謀な貸付ないし増資を行い,総合計額15億2000万円が回収不能となり,適切な債権管理を怠ったことに関し,当時のシャルレ役員らに対して,損害賠償を求める株主代表訴訟である。

⑴ NLCに対する融資

シャルレは,2007(平成19)年9月~2010(平成22)年2月までの間に、NLCが行う新規事業(U-SPEAKというタッチ式ボイスリーダーペンを教育用ツールとして主に海外において販路を模索する事業、以下「U-ペン事業」という。)の事業資金として、同社に対して総額5億9500万円もの貸付を行った。しかし、上記シャルレからNLCへの多額の貸付に関しては、U-ペン事業という新規事業の立ち上げにあたって事業の将来性や市場規模等回収可能性に関する事項について綿密な議論が行われた形跡は窺われず、その後も当該事業の見通しについて十分な検討を行わないままに事業資金としてNLCから求められるがままに無謀な貸付を行っている。

⑵ ライテックに対する融資

シャルレは,2010(平成22)年4月~2012(平成24)年1月までの間に、シャルレとK社との間での合弁事業としてライテックが行う新規事業(LED事業)の事業譲受費用及びその後の運転資金として合計9億2500万円もの貸付を行った。

しかし、上記シャルレからライテックへの多額の貸付に関しても、上記NLCに関する貸付と同様、事業の将来性や市場規模等回収可能性に関する事項について綿密な議論が行われずに、ライテックから求められるがままに事業資金を貸し付けている。

なお,合弁会社共同運営者であったK社は「不採算事業」として当該合弁事業撤退し,2012(平成24)年3月30日,合弁解消契約を締結している。

2 弁護団の活動

弁護団は,株主からの委任を受け,シャルレの監査役らに対して,NLCに関しては2011(平成23)年6月22日付の責任追及等の訴え提起請求書により,ライテックに関しては2012(平成24)年3月29日付の被告らの責任を追及する訴訟を提起するよう請求した。

しかし,NLCについては上記書面が到達した日から60日である2011(平成23)年8月22日までに責任追及等の訴えは提起されなかった。ライテックについても上記書面が到達した日から60日である2012(平成24)年5月30日までに責任追及等の訴えは提起されなかった。

弁護団は,これを受けて2014(平成26)年12月26日付で神戸地方裁判所に訴状を提出し,株主代表訴訟を提起した。

3 本件訴訟の社会的意義

本件訴訟は,子会社への増資や貸付について,

①親会社の取締役が子会社の監視監督を怠ったことを内容とする善管注意義務違反が認められるか否か
②多額の貸付に関する経営判断の誤りないし当該判断の前提となった事実や資料の収集の懈怠を内容とする善管注意義務違反が認められるか否か

を問うものである。

親会社取締役は,子会社に貸付や増資を行うことによって親会社にもたらされるメリット(子会社の倒産による回収不能額の拡大防止,出資の無価値化防止等)と現実的な回収可能性とを勘案しつつ子会社への貸付ないし増資の可否を判断するべきであり,かかる判断を行うことなく漫然と子会社への貸付ないし増資が行われることは,親会社取締役の善管注意義務違反と評価されるべきである。

また,親会社取締役は,善管注意義務の内容として親会社資産を適切に管理する義務を負う。親会社が保有する子会社株式は親会社の資産に他ならず,したがって親会社取締役は,子会社株式の価値が毀損しないように子会社を監視・監督する義務をも負っている。

特に,子会社の取締役を兼任している取締役は他の取締役よりも子会社の経営状態をよく知りうる立場にある。子会社の取締役を兼任している取締役は,そのような立場から得られた知識や情報を十分に活用することが求められているはずであり,その分,事実調査等についてはより高度な水準の注意義務を負うものと考えるべきである。

本件訴訟はこのように,子会社への増資や貸付といった経営判断の場面を通して,取締役の責任という観点から親会社と子会社の関係を問うものである。

Pocket