株主の権利弁護団

オリンパス株主代表訴訟事件

1 事案の概要

オリンパス株式会社は、バブル崩壊等によって抱え込んだ巨額の含み損のある金融商品を、連結対象とならないファンド等に簿価で買い取らせるといったいわゆる「飛ばし」という手法によって損失を隠蔽し、後に、海外企業買収の際の高額なコンサルティング料の支払や実態とかけ離れた不当に高い価額での国内ベンチャー企業買収によって計上した「のれん」を減損処理することで、上記「飛ばし」によって隠蔽されていた損失を解消するという不正な会計処理を行っていた。

2011(平成23)年7月、雑誌「月刊FACTA」がオリンパスの上記M&Aに関する不透明な資金の流れを指摘する記事を発表し、これを読んだ当時のオリンパス社長マイケル・ウッドフォードが、元社長であり当時の会長であった菊川剛らに対して海外企業買収の際の高額なコンサルティング料の支払や国内ベンチャー企業買収額、のれんの減損処理等について説明を求め、最終的に、引責辞任を促したが、逆にオリンパスの当時の取締役らは取締役会において、全員一致でウッドフォードを社長から解任し、菊川を社長に復帰させた。ウッドフォードの解任が公表されると、オリンパスの株価は急落し、 不当な解任を受けたウッドフォードは、報道機関等を通じて菊川らが違法行為を行った疑いのあることを告発したが、オリンパスは解任の理由を「(ウッドフォードと)他の経営陣の間にて、経営の方向性・手法に関して大きな乖離が生じ、経営の意思決定に支障をきたす状況になったことにあり」、不正の疑いがあると指摘されているM&A等に関して「取引自体に不正・違法行為は認められず、取締役の善管注意義務違反および手続的瑕疵は認められない」として違法行為の存在を否定し続けた。

その後もオリンパスに対する疑いは消えず、報道は過熱し、株価下落は止まらなかった。結局、菊川らは、違法な損失隠しのために上記取引を行っていたことを認めるに至り、オリンパスが設置した弁護士と公認会計士から構成される第三者委員会の調査や、証券取引法違反及び金融商品取引法違反(虚偽記載)の刑事裁判通じて、上記不正会計の詳細が明らかになった。

2 株主代表訴訟等の提起

当弁護団は、株主からの委任を受け、オリンパスに対して、取締役らの責任を追及するよう提訴請求を行い、さらに監査役及び会計監査人らに対しても責任追及の訴えを提訴するよう提訴請求書を追加した。

オリンパスは、同社が設置した「取締役責任調査委員会」の調査結果をもとに、提訴期限の2012(平成24)年1月8日、東京地方裁判所に菊川を含む取締役ら19名に対する損害賠償請求訴訟を提起した(第1事件)。

当弁護団は、同月17日、上記オリンパスによる訴訟とは別途、ウッドフォード氏解任に関する取締役らの責任について、株主代表訴訟を提起した(第2事件)。

さらにオリンパスは、同社が設置した「監査役等責任調査委員会」による調査結果をもとに、同月16日、現旧監査役ら5人に対して損害賠償請求訴訟を提起した(第3事件)。

当弁護団は、オリンパスが提起した第1事件及び第3事件に共同訴訟参加した(第4事件及び第5事件)。

3 和解の成立

(1) 第1事件・第4事件の非関与者

会社原告、株主原告(当弁護団)と被告らとの間では、損失隠しの関与者である菊川らが不正会計を行った事実には争いはなかった。

そして、非関与者とされる被告らが、問題とされるM&Aやコンサルティング料の支払等を決議した取締役会の時点において、損失隠しの事実を認識していたことを示す客観証拠はなく、裁判所から和解勧試がなされ、非関与者とされる被告らがオリンパスやその関係者に対し衷心よりお詫びすることなどが和解条件とされた。

2016(平成28)年3月24日、第1事件の非関与者とされる被告らと和解が成立した。

同和解は、被告らが、オリンパスの取締役会においてM&Aやコンサルティング料の支払について、調査・検討が尽くされないまま、全員異議なく承認可決する旨の決議を行い、その結果、これらが損失隠しのために悪用されたことを認め、そのことを謝罪するともに、オリンパスに対し解決金を支払う内容となった。

(2) 第3事件・第5事件

2016(平成28)年5月12日、第3事件・第5事件の被告ら4名について和解が成立した。和解内容は、損失隠しの事実を知らなかったとされる旧監査役ら4名が、オリンパスの取締役会においてM&Aやコンサルティング料の支払について、調査・検討が尽くされないまま、全員異議なく承認可決する旨の決議を行い、その結果、これらが損失隠しのために悪用されたことを認め、そのことを謝罪するともに、オリンパスに解決金を支払う内容となった。

また、同年11月28日、損失隠しを知っていた旧監査役1名について、監査役としての法的責任を認め、衷心よりお詫びするとともに、解決金としてオリンパスに2113万3333円を支払う内容で和解が成立した(第3事件・第5事件は終了)。

4 関与者に対する第1事件・第4事件及び第2事件の経過

2016(平成28)年10月20日、11月24日、12月1日に、菊川ら損失隠しの関与者及びウッドフォード解任決議に賛成した一部の取締役らの尋問が行われ、当弁護団は、ウッドフォードを解任して違法行為の隠蔽行為を図った責任について厳しく追及した。

第2事件は、第1事件・第4事件のうち和解の成立していない菊川ら損失隠しの関与者に対する訴訟とともに、2017(平成29)年1月26日に結審し、同年4月27日に一審判決が言い渡された。

5 一審判決の結果と評価

一審判決は、違法行為の疑惑を追及していたウッドフォード解任に関連した責任として、菊川ほか損失隠しに関与した3名の旧取締役に対しては、損失隠しの発覚を防ぐ目的でウッドフォードを解任したなどと認定し、これによってオリンパスに1000万円の信用毀損による損害が生じたとして、1000万円の損害賠償責任を認めた。しかし、第2事件の被告ら(損失隠しに関与していないとされる旧取締役ら)については、損害賠償責任を認めなかった(第2事件については請求棄却)。

また、一審判決は、違法配当等による責任として、損失隠しに関与した菊川ほか2名の旧取締役に対して、総額586億円余の支払義務を認め、オリンパスが支払った課徴金や罰金に関する責任として、菊川ほか5名の旧取締役(うち1名は判決時までに死亡しており、相続人3名が承継した。)に対して、総額1億円の損害賠償責任を認めた。上記総額586億円余の支払義務は、オリンパスが提起した内金請求訴訟では達成できず、株主原告が提起した第4事件があってこそ実現した成果である。株主原告による訴訟参加が会社と役員の馴れ合い防止として機能し、経営者監視の結果として多額の責任が認定されたものであり、大企業の取締役の責任の重大性を周知し、企業統治の適正化に資する意義のある判決である。

一審判決は、菊川らが損失隠しの発覚を防ぐ目的でウッドフォードを解任したと認定したが、これは、株主原告が申立てた文書提出命令によってオリンパスから提出されたウッドフォードのメールやPWCの報告書等(オリンパスは任意提出を拒否した)が決め手となって認定されたものである。

さらに、一審判決は、疑惑を追及していたウッドフォードを解任することは最善の選択といい難いと認定し、当時の状況において第2事件の被告らが取締役としてベストプラクティスからは程遠い行動をとっていたことを指弾している点でも評価できる。

もっとも、一審判決は、損失隠しを知らなかったとされる取締役らについては、ウッドフォード解任を主導した菊川らの意図を認識できなかったなどとして、菊川らの意向に従って問答無用でウッドフォードを解任した第2事件の被告らの責任を認めておらず、この点は到底承服できない。ウッドフォードの証人尋問を採用せずに却下しておきながら、ウッドフォードの役員としての資質に問題があるとする菊川ほか被告らの言分を一方的に容れている点もフェアではない。

株主原告は、控訴審において、ウッドフォード解任に賛成して菊川らの隠蔽行為に加担した取締役らの責任を追及するため、東京高裁に控訴した。

なお、オリンパス(第1原告)も、一審判決について、「旧取締役6名のうち下山敏郎(但し、下山敏郎は死亡しており、3名の相続人が被告。)、岸本正壽、菊川剛、山田秀雄、森久志の5名に対する請求の一部を棄却した部分について承服できない」として、控訴を提起している。

https://www.olympus.co.jp/ir/data/announcement/2017/contents/ir00010.pdf

また、一審判決で責任を認められた被告らも、菊川を除き、控訴を提起している。

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