株主の権利弁護団

公認会計士から見た上場会社の問題点 (松山治幸)

公認会計士から見た上場会社の問題点

平成22年5月17日
公認会計士 松山治幸

日本の企業のほとんどは非上場会社である一方、上場会社数は、平成22年5月15日現在、3,857団体に上っている。国内企業3,703、外国企業14、投信等14で、東証が2,313、大証368、名古屋・札幌・福岡の合計で167、JASDAQ  では869団体に上っている。重複部分は除いており、新興市場を含んでいる。

上場企業は同社の株式を自由に売買できること、市場から広く資金調達ができることが重要な点であり、そのようなことが前提にあるため会社の現状等についての適時の情報開示が一定の法令により強制されている。
その主なものは

  1. 有価証券報告書等の開示(有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書)・・・金融庁
  2. 決算短針による情報開示・・・証券取引所
  3. 適時開示情報・・・金融庁、証券取引所

このように情報の適時開示が要請されていることに加えて、財務情報については、公認会計士又は監査法人による会計監査が義務付けられている。

上場会社の不祥事

上場会社の不祥事の代表事例は、粉飾決算である。赤字決算であるにもかかわらず諸般の事情から黒字決算に装うことが主流である。このような粉飾決算は過去の事例は多数ある。
相当に古い事例としては、山陽特殊鋼、日本熱学が思い出され、最近の事例では山一證券の損失隠しの事件に加えてライブドア事件が記憶に新しい。

粉飾決算以外の不祥事といえば、脱税、談合、インサイダー取引、雇用関係、贈賄、食品偽装、製造物の欠陥隠しなどが発生している。食品偽装では雪印食品が上場廃止、倒産という道を歩んだ事例もあった。しかし、粉飾決算は、その程度にもよるが、重大な事件では多くの投資者に損害を与える。

公正で健全な証券市場の確保のためには、株式公開企業が公表する財務内容が適正なものである必要がある。企業は一定の公正妥当な企業会計の基準に準拠した決算書類(有価証券報告書に含まれる財務諸表)を作成する義務を負っているが、この決算書類が適正なものと担保するために公認会計士又は監査法人による会計監査が義務付けられている。それだけに、上場企業が公表する財務情報の信頼性確保が重視されていることになる。

粉飾決算の目的

上場企業の評判の確保に加えて、赤字決算では経営陣の退陣要求も生じかねないことから経営陣の保身も影響している。金融機関からの融資の確保も目的であろうし、継続した安定配当を是非とも実施したいとする意向も生じる。既に公表している決算見通しに対して大幅な下方修正を回避したいという意図も生じる。増資に当って比較的高い価格での募集のためには好業績という背景も必要になろう。これら目的の単独か複合かによるものである。

粉飾決算の弊害

会社が発行する株式も一つの証券化された商品である。当該商品の価格は、企業業績に大きく影響を受けるものでその業績が虚偽であれば証券の価格は適正でないことは云うまでもない。通常は粉飾決算により価値の乏しい商品を高価取得に繋がるもので、投資者はここで損失を蒙る。

粉飾決算による株主救済

粉飾決算により形成された高く仮装された株価で取得した株主は、正常な価格との差額が損失補償されることが基本である。

最近の事例

東証マザーズ市場に上場している株式会社エフオーアイ(本社:相模原市)は昨年の11月に上場したが、当時の有価証券届出書に含まれていた平成21年3月期の決算書が重大な虚偽記載であったことが明らかになった。その状況を受けて、最近800円程度で推移していた株価が、連日の大量売りを浴びてストップ安の状況が続いている。昨年の株式上場時に公募株式数675万株を1株850円で募集している。直近の平成21年3月期の連結決算では、1株当りの純資産額が810円、1株当りの当期純利益額が32円からすれば、この公募価格は適正な水準に見えるが、事実が違った。この当時の財務内容は全くの架空であったため1株当りの純資産額の大幅に修正され株価も大幅な下落に繋がることは当然の結果であろう。

まとめ

上場企業の場合、企業のコーポレートガバナンスの確保が強く要請され、内部統制組織の確立を行うことにより、投資者を中心とする利害関係人に被害が及ばないよう対応されている。しかし、現実には企業不祥事が散見され、粉飾決算事件も今なお継続して発生している。その予防策として会計監査の強化などの施策も実施されているところであるが、不祥事の発生を食い止めることはできていない。今後も発生を防止する手当てはより充実されるであろうが、その発生を皆無にすることは難しいであろう。残念ながら事件が発生した場合には、経営陣の責任追及に併せて、株主等被害者救済の道の確保がより求められる。
そうした意味から、株主の権利弁護団の果たす役割に大きく期待したいものである。

以上

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